自分が作品を作るときにやっていることをまとめてみました。
これまでの作品や出展履歴はホームページに載せています。 https://kasanetarium.web.fc2.com
〇体験をデザイン
自分が見せたい世界、体験させたい世界をイメージします。
僕は思いついたことをすぐにメモできるようにメモ帳を持ち歩いています。
最近はiPadも活用しています。
・文字化
キーワードを文字で書きだします
・想像
頭の中で自分が体験したい妄想を広げます。
・イラスト化
整理するためにイラストを描きます。
イラストが描けた時点で一つの目標を達したといっていいほど重要な行為です。
はじめのうちは最終的な完成品がこのイラストとかけ離れたものであることが多々ありますが、ある時を境に最初に描いたイラストをそのままアウトプットできる日が来ます。
それは技術力が向上したということもありますが、最初の段階でプロトタイプに必要となる様々な要素を最初の段階から考慮できるようになったということです。
・動画
私はしませんが、イメージを膨らませるため、また仲間とイメージを共有するためにこの段階でイメージを動画として撮影するという手法もあります。
・要素の箇条書き(ToDoリスト化)
上記の通り、実現に必要となる要素をできるだけ細かく記述します。
今の自分に足りない要素があれば勉強する必要があります。
勉強のついでに先行事例の調査も並行して進めます。
・要素ごとの検証実験
最初からプロダクトの試作に進めることはまずありません。
要素ごとに分けてすべてが問題なく動作することを確認します。
簡単な電子回路とマイコン、プログラミングで要素ごとにテストを進めます。
〇プロトタイプ
妄想を具体的にデバイスに落とし込みます。
・形状デザイン
大体の形状のイラストを描きます。
この形状に収まるようにパーツを選択してく必要があります。
・電子パーツの選択
必要なセンサ(センシング)、アクチエータ(駆動、出力)を考えます。
そのほかにも電圧を制御するための回路など必要な回路とそれに必要なICチップをピックアップしていきます。
世の中に大量にある電子パーツの中から、形状にマッチするか、駆動電圧、金額(割とネック)など総合的な判断が求められます
ブレッドボードを使って簡単に動作確認などを行います。
・機構の設計
動くものであれば、イメージしている動作を実現するための機構を設計する必要があります。
簡単にパーツを3Dプリンタで出力して実験をします。
タミヤのITEMシリーズも使えます。
・ネットワークの選択
最近では、単体で完結せず、ネットワークを使うこともあります。
その際は WiFi、Bluetooth、有線、など何が必要か考えます。
それによって、デバイスを制御するマイコンやラズパイなどの選択肢が見えてきます。
・回路設計
手書きの回路図を描きます。
その回路図をもとに電子回路のCADを起こします。
CADを元に半田付けします。修理等で見返すこともあるため、簡単な回路であっても面倒くさがらず図面化しておくことが大切です。
配線の方法にもかなりノウハウがあるため、ネットに落ちている情報を見つけたらノウハウとしてまとめておくとよいでしょう。(SNSでたまに、この基板設計は良くないと盛り上がっているものがったらURLをコピーするようにしています。)
設計した基板は中国に依頼すると短納期(2週間)でプリント基板(PCB)として納品されます。
PCBについてもどのサービスを利用するといいなどのノウハウがあります。
複雑な回路が必要な電子パーツについてはブレッドボードで試すのも大変なので、最初からPCBを作ってしまって実験することもあります。
PCBAという最初から電子パーツも載せて納品してくれるサービスもあります。
私は利用したことがありませんが、大量に同じものを作る必要がある場合は利用するとよいでしょう。
電子パーツの入手先なども指定したエクセルシートを用意する、手に入りにくいパーツは支給するなど難易度は上がります。
・マイコンの選択
上記のすべてを満たすことができるマイコンを選択します。
大量のマイコンが存在し、それぞれ機能、処理能力、消費電力(電源電圧)、開発環境が異なります。
サイズが割とネックとなることもあります。
最適なマイコンを選択するというのもノウハウとなることがあります。
もし並列処理がどうしても必要な場合はマイコンではなくミニコンピュータといわれるラズベリーパイを利用します。
・3DCAD設計
3Dですべての電子パーツと基板、マイコン(ラズパイ)が収まる形で形状を3DCADで起こします。
基本的にすべての電子パーツをノギスで測り、干渉しないように3DCADに反映する作業が主になります。
機械動作がある部分についてはCAD上で組み立てて、制限を与えることで実際の動作をCAD上で確認することができます。
出来上がった3DCADデータを元に3DプリンタやCNCを使って、形状を出力します。
割と忘れがちなのが組み立て方(組み立て方手順)、ねじ止めの位置を考慮しておくことです。3DCAD上ではうまく組まれていても、実際に3Dプリンタで出力してみたら、ネジの位置がとんでもないところにあって、組み立てられないということはよくあります。
・3Dプリンタ
家庭用の3Dプリンタが安くなってきたこともあり、3DCADで設計したデータはそのまま出力して実物で確認することも容易となりました。
外部サービスに出力もあり、約1週間で届くため利用するという方法もありますが、自宅で出力するのに比べて非常に高価です。
精度(ある程度)が必要なパーツや、どうしても強度が必要なパーツのみ外部サービスを利用するなど、家庭用3Dプリンターと外部サービス使い分けがおすすめです。
・レーザー加工機
アクリル板やMDF板を組み合わせて作れるような物であればレーザー加工機で製作できます。
こちらもデータを送るだけで成果物を納品してくれるサービスがあります。
木製の板の場合、加工面がどうしても焦げてしまうので、人によってはヤスリで加工面を削り取ってる場合もあります。
・プログラミング
マイコンやミニコンピュータを動かすためにプログラミングを行います。
電子パーツ、特にモジュール化されているものに関してはライブラリが存在している場合も多く、それを利用することで開発の難易度を下げることができます。 (姿勢制御で9軸センサーを使用したときは最適なライブラリがなく、一から作った方が楽なこともありました。)
巨大な行列を定義するとマイコンの動作が不安定になるなど、どこにも載っていない謎の仕様があります…。
作品に応じて、マイコン以外にもPCのソフト開発やネットワークのプログラムを書く必要があります。
最適な開発環境、開発言語の選択が必要となります。
・操作としてもデザイン
体験をするにあたって体験者に求める動作に違和感があっては体験がぶれます。
例えば糸電話型デバイスであれば上下左右がなく、いろんな方向いろんな持ち方ができます。持ち方を指定すること(例えばこっちを上にしてくださいのような指示)は体験がブレるため、ロボットの姿勢制御技術を取り入れることで、どんな持ち方でも体験できるようにしています。
ボタンの数や意味もきちんと考える必要があります。ある体験に対して3個のボタンで完結するよりも、1個のボタンで完結する方が使いやすく、体験をぶれることなく伝えることができます。ボタンを少なくすることは体験の意味をよく理解し、プログラミングする必要があります。心拍を電球に保存する装置では、電源スイッチを除けば、操作に使用するスイッチは1つだけです。
複雑なのはデバイスの中身だけで、体験者の操作に求めないように設計します。
・試作
試作機は1つの作品を作るにあたり、大体3機くらい試作します。(カサナビもプロトタイプを含めると3体プロトタイプを作っています。)
ハードウェアのプロトタイピングは一つの修正がすべてに影響しているため電子パーツを一つ変えただけで、回路設計が変わるだけでなく、基板を収めているケースや駆動部の形状の再設計(3DCADの書き直し)、制御プログラムの修正、などが必要になる場合があります。(その結果、試作機が3体くらいになる場合があります。)
・工程管理
すべてが欠けることなく、並行して進める必要があります。
締め切りがある物に関しては、一番時間がかかる物(外部に出すPCBなど)を真っ先に終わらせられるように進めていきます。
ハードウェア イズ ハード という言葉が意味するようにハードウェアを作るのが最も時間を有するので、あとから調整できるプログラミンは一番最後に回すことが多いです。
佳境になると3Dプリンタが作業しているうちに睡眠をとって、できるころに起きて作業をするというような生活リズムになることもあります。
試作にあたって必要となる技術をすべて持ち合わせているわけではありません。 必要なものを調べながら少しずつ自分のできることを広げていきます。
〇作品を世の中に出す
作品は完成をもって完成ではなく、作品の親として、その作品が世界に出ていくところまでを責任をもってやっていく必要があります。
・動画の作成
作品自体が作品ではなく、体験そのものが作品であるのであれば特に動画(その作品を中心としたドラマ)を撮影します。
お遠くに住む会えない人と向かい合ったときだけ会話できる見えない糸で結ばれた糸電話「ミエナイトデンワ」という作品に対しては次のようなドラマを制作しました。
コロナ禍ということもあり、一人で出演、撮影、編集までを行いました。
ミエナイトデンワ Invisible string telephone
カメラや音声機材、照明など、作品よりもお金がかかってしまうところでもあります…。
カメラはフルサイズの一眼レフを使っていますが明るい代わりにボケすぎるのであまりお勧めできません。
音声はカメラマイク使ってもといですが無音でゲインが上がり、ノイズを拾うため、別で音声機材を用意するのがおすすめです。
高いソフト(Adobe Premiere Proなど)を使うことで、自由な字幕の挿入やMAができ、結果的にストレスがないので良いです。
・イベントに出す
世の中にあるイベントや賞レースにエントリーしより多くの人の目に作品が触れるようにします。
私事ですが、サンフランシスコ、シンガポール、深圳(世界のハードウェアの聖地)、上海、台北、日本全国で展示してきました。
・論文化
学術的な新規性があれば評価実験を行い、学会発表や論文化をする必要があると思います。
これを今後やっていきたいと考えています。
最後に
ここで紹介したやり方は僕がカサネタリウムという名前でこれまで活動してきた結果、落ち着いたやり方です。 とくに、技術スタートではなく、空想や妄想発信で、それを形にするために僕が実験してきた方法です。 10人いたらきっと10人それぞれ違ったやり方、手段があると思います。 物を作らなくても、絵や映像で表現することもできます。 なので、あくまで一例として参考にしてもらえると嬉しいです。 何もないところからプロダクトとを作るのは正直大変ですが、ものづくりを通じて誰かに想いが届いたときの喜びはひとしおです。