カサネタリウムの日記 -Kasa Date 傘立て-

カサネタリウムの活動を中心に記事にしていきます

「ミエナイトデンワ:遠隔地にいる相手の存在を感じながら音声通話できる糸電話型デバイスの提案」を EC2021で発表しました。

2021年8月30日(月)〜9月1日(水)にオンライン(zoon)で開催されたエンターテイメントコンピューティング2021で 「ミエナイトデンワ:遠隔地にいる相手の存在を感じながら音声通話できる糸電話型デバイスの提案」を発表しました。

発表スライド

ミエナイトデンワの紹介動画


www.youtube.com

予稿論文

情報学広場:情報処理学会電子図書館

参考リンク

EC2021 Webサイト
エンタテインメントコンピューティング2021 Official Website

EC2021 プログラム
ec2021

発表の経緯

今回私はプライベートのMaker(ものづくり)活動の中で開発した『ミエナイトデンワ』について報告しました。 プライベートの活動ということもあり私は無所属で、共著に北海道情報大学の湯村先生に共著に入っていただきました。

どうして学会発表を目指したのか

学会発表というと大学や企業での研究成果を報告する場というイメージがあると思います。 私もそのイメージでした。

発表のきっかけは2020年の夏に遡ります。 それまでは仕事の中で職業研究者として研究をしたり、学会などで発表する機会があったのですが、 2020年の夏の異動を期に仕事では研究分野から離れることになりました。 仕事としては研究を離れることとなりましたが、どこかで研究というものにつながっていたいという思いがありました。

一方で私はこれまでカサネタリウムという名前でMaker活動をおよそ10年続けてきました。 趣味で始めた活動ですが、その中で自分が取り組んできたこと、作ってきた物を通じて、 研究や学会という物に関わっていくことができないかと考えるようになっていました。

そんな中、転機となったのは2020年12月に開催されたOgaki Mini Maker Faire 2020の会場で湯村さんにお会いしたことでした。 湯村さんはその年に働きながら博士号を取得されタイミングでした。 湯村さんは理学のバックグラウンドを持ち、現在はヒューマンインターフェースや情報の研究をされていました。 私は大学や仕事では理学を専門としていた対して、Maker活動では工学(ヒューマンインターフェース)に興味を持って活動してきました。 そういった点からも、湯村さんに相談したいと考えていました。

上記のことを相談したところ、湯村さん自身もメイカー活動と研究について興味があるということで、その後もチャットやzoomなどで相談に乗っていただけることになりました。 その中で目標として、2021年8月末に開催される情報処理学会の研究会である、エンターテイメントコンピューティング2021での報告と 論文執筆を目指すことにしました。

エンターテイメントコンピューティングは「計算処理により「娯楽」「楽しみ」や「遊び」を創造する研究分野」と紹介されており、 過去の発表を見てもゲームから遊び、ヒューマンインターフェース、AR/VRなど幅広い報告がされていました。 自分の興味関心のある発表も報告されており、この学会での発表したいと思ったということあります。

発表にあたり、湯村さんには共著という形で論文の執筆から発表スライド作成に至るまで、ご指導いただきました。 特に論文の執筆中(6月上旬から7月末まで)からは週1回の間隔でzoomを使いながら打合せ(論文の書き方、方針などの相談)や論文の執筆や修正をおこなっていきました。 湯村さんも4月から北海道情報大学の先生になられたばかりで授業の準備や研究室の立ち上げで忙しい中、相談に乗っていただききました。

予稿論文執筆

発表にあたり特に時間をかけておこなった予稿論文執筆について記載します。 発表スライドについても時間はかかりましたが、予稿論文で流れができていたため その流れに沿って、スライドを作成しました。

予稿論文のページ数

学会発表には予稿論文が必要になります。 エンターテイメントコンピューティング2021では

  • 口頭発表(ロング) 原稿6〜10ページ
  • 口頭発表(ショート) 原稿2〜6ページ
  • デモ発表 原稿2〜6ページ

というふうに原稿のページ数が決まっています。 私は口頭発表(ロング)を目指すことにしたため、原稿6〜10ページの原稿が必要になります。

関連研究の調査

論文執筆にあたり、自分の取り組んだこと(研究)の新規性はどこにあるのかを述べる必要があります。 Maker活動では「なんとなく他の人がやっていないことだろう」という形で作ることがほとんどですが、 学会発表では

  • 自分が取り組んだ分野はどこか
  • その分野でこれまでにどのような取り組みがなされてきたか
  • まだ解決されていない課題(自分が解決しようとした課題)は何か
  • その課題に対してどのように取り組んだか

をきちんと整理し述べる必要があります。 今回報告した分野は自分にとってはこれまでに報告したことがない新しい分野であったため、どこから手をつけて良いものか…という状態でした。 湯村さんとも相談しつつ、まずは自分の取り組みに近い分野を選び、論文を読んでいきました。

まずミエナイトデンワが実現したいことや、解決したい課題から見えてきた要素から

  • 遠隔地の相手の存在をそれとなく視覚的に感じさせるデバイスとしてアンビエントディスプレイの研究事例
  • 会話以外に行為を伴うテレイグジスタンスの研究事例
  • 遠隔地の相手と向かい合うデバイス

について、先行研究を調査していきました。 論文検索は「Google Scholar」を使って検索していきました。 読んだ論文は落合陽一先生の「論文まとめフォーマット」に倣って要約し、ストックしていきました。 論文をまとめておくことで、いざ論文を執筆するとき、要約から各研究を自分の言葉で説明することができるので、大変役立ちました。 lafrenze.hatenablog.com

論文を調べていくうちに、初めての分野であっても、脈々と先人から先人へと受け継がれる研究分野の流れが少しずつ見えてくることができました。 そして、その流れの中で自分がどこにいて、どこを目指そうとしていたのかが整理されていくことを体感しました。 湯村さんが「論文を読むことは地図を書くこと」といっていましたが、本当にその通りだと思いました。 今自分がどこにいるのかを知ることは、自分の興味がどこにあるかを知ること、そして、次に何をしたいかを知ることにも繋がっていくように思います。 論文を読むことで、その分野の論文の書き方(論文構成)を把握することができました。

システム設計、実装部分の執筆

バイスのシステム設計、実装についてはMaker活動の中の取り組みがそのまま活かせるため、論文執筆においても書きやすい部分でした。 論文を執筆に向けて、4月頃に自分のWebサイト向けにミエナイトデンワに用いた技術や図を整理しておき、論文執筆においてもそれらを活用しました。 https://kasanetarium.web.fc2.com/work/InvisivleStringTelephone/index.html

論文にするにあたり、課題に対してどのようにシステム設計し実装していったのかを丁寧に詳細を記載しました。

評価部分の執筆

評価については、これまでにイベントで展示した際に体験者からいただいた感想をもとに、解決したい課題をミエナイトデンワが 解決出来ているか、について議論しました。 また体験者の意見をもとに、今後の展開についても議論しました。

被験者を使った評価実験を今後実施できればと考えています。Maker活動の中でやるとしてもある程度お金をかけて被験者をお願いする必要があるのかもしれません。

論文執筆に使ったツール

論文はオンラインLaTexエディタOverleafを使って執筆していきました。 湯村さんと執筆中の論文を共有して共同編集していきました。

Overleaf, オンラインLaTeXエディター

LaTexでの論文執筆は学生以来で、その頃はコンピュータ上での環境構築などでかなり苦労した記憶があったのですが、 Overleafはブラウザさえあればすぐに執筆を始めることができる大変便利なツールでした。

学会に参加して

今回、学会で報告することで、多くの研究者の方々から自分の取り組みについて議論していただき、コメントをいただくことができました。 普段のMaker活動においても新規性は意識しますが、開発した動機や思いは頭の中にはあっても、それを整理(過去の先人たちの成果も含めて課題に対してどのようにアプローチしたか)したことがありませんでした。学会発表を通じて自分が何をしたかったのか、これかな何をして行きたいのかを整理するきっかけにもなしました。 何より研究者の方に私の取り組みを知っていただくことができて本当によかったです。

これまでのMaker活動では、アイデアを形にし、動画にし、Webサイト、SNSで公開という形で世にでしてきました。 今回、学会発表と予稿論文という形で自分の取り組みを他の人が参照できる形で世の中に残すことができました。 私のMakerとしての活動と研究や学会との関わり方について、今後も考えていきたいと思います。

最後に

昼間は働きながら夜や土日に論文を読み、予稿論文を執筆する…という作業は正直大変でした。 それでも提出間際になると「もう書けないのか」と思うと寂しいような気持ちににもなりました。 大変ではありましたが、とても楽しいやりがいのある日々を過ごすことができました。

湯村さんには発表のきっかけをくさっただけでなく、予稿論文執筆から学会発表に至るまで、平日の夜や休日を割いてご指導いただきました。 最終的に9.5ページになった予行原稿をは、湯村さんのサポートがなければ最後まで書き切ることはできなかったと思います。 この場を借りて感謝申し上げます。